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【団体インタビュー 001】NPO法人ブラジル友の会

2017年07月30日 20:55 by tabunka_tokai
2017年07月30日 20:55 by tabunka_tokai

目の前にある課題の解決を目指し続ける、日系ブラジル人中心のグループ

外国から日本に来る子どもたちが夢をもって羽ばたける、外国籍でも地域で受け入れられる、そんな共生社会を目指して活動しているNPO法人ブラジル友の会(以下、友の会)代表の金城エジウソンさんに会うため、美濃加茂市の多文化交流センターを訪ねました。

「ブラジルとはちがう学校教育制度をもつ日本。働くために日本にやってくる多くのブラジル人たちが、一緒に連れてきた子どもの就学や進路について戸惑いを感じていました。制度のちがいだけでなく言葉や(学校の)教育方針、習慣などわからないことばかりの中で、どのように学校に通う子どもたちをサポートしていけばいいのか。このことはブラジル人だけでなく、当時外国から日本に出稼ぎにやってきた人たちの共通の課題として捉えられていたんです。」

(左:金城エジウソンさん、右:友の会スタッフの渡辺マルセロさん) 

目の前の課題に一つひとつ取り組んでいく

エジウソンさんは、仲間とともに2000年にブラジル人の子どもたちにポルトガル語を教える教室を立ち上げました。日本で生活していく中で、子どもたちがポルトガル語を忘れていってしまうという課題を解決するためです。また、学用品を集めてブラジル人児童生徒に無料で貸し出しをする学用品貸与事業も始めました。ブラジルから多額の費用を払って日本にやってくる移住労働者たちは、来日してすぐに子どもを学校に通わせ始めることが困難な場合が多いのだそうです。学用品貸与は、そんなハンデを克服する手助けになります。

子どもたちが将来のことを考える手助けをする支援も行っています。子どもにとって、将来の夢を持ちこれからの展望を描いていくのは容易ではありません。友の会では、工場や新聞社、テレビ局など様々な職場見学を実施し、子どもたちが夢をもてるようにサポートしています。

きっかけは、ある日ポルトガル語教室に来ていた小学5年生の「もう勉強したくない」という一言でした。なぜかと尋ねるスタッフに、その子は「もう親より日本語が上手だし、どうせお父さんみたいに工場でリフトを運転する人になるのだから、勉強する必要なんてないよ」と言いました。将来に希望をもてないことが、すぐに物事をあきらめてしまうという態度につながっていたのです。

すぐに進路支援のプロジェクトを始め、立ち上げの初年度から2人の子どもを県立高校の定時制に進学させることができました。前述の児童も友の会の積極的な働きかけで、今は高校に進み夢をもって勉強に励んでいます。さらには、目標を見つけて勉強したいと思った生徒をサポートするために放課後学習支援も行っています。

継続の秘訣は・・・

今でこそ、その存在感で東海地域の多文化共生を引っ張っている友の会ですが、10年間継続して活動するというのは決して簡単なことではありません。異なった文化の中で活動していく難しさや、やりたいことが思ったように形にならない苦しい時期にあきらめようと思ったこともあったそうです。人材や経費、時間など限られたリソースの中でプロジェクトを続けていくためには、並々ならぬ努力と強い意志が必要だったと思います。「プロジェクトが軌道に乗るまでは、やりたいという想いが先走ってしまって空回りすることも多かったが、一つひとつ経験から学んできた。そのような時も、だれかの役に立っていると信じて乗り越えてきた」というエジウソンさん。「友の会が行っている支援活動は必要なのだと理解し、協力してくれる人たちがいたから続けてこられた。今の成功はスタッフがあきらめたり、離れたりしながらもつながり続けてきた結果だ」と言います。

 友の会のこれから

"リーマンショック”と称される経済危機で、在日外国人の置かれている状況はさらに厳しくなりました。多くの外国人労働者が"派遣切り”に遭い、失業者が激増しました。日本中が不況にあえいでいましたが、言葉の面でハンデのあるブラジル人たちは情報不足のために苦労しました。この経験から、現在では仕事や生活についての情報提供やオリエンテーションを行っています。情報を提供するために近隣市町の広報にある情報をポルトガル語に翻訳してまとめ、友の会が発行するフリーペーパー『Educando』に掲載しています。そこには、自分たちでしっかり情報を入手し行動していこうというメッセージが詰まっていました。

ボランティアという文化がまだ少ない在日ブラジルコミュニティ。これまでは仕事や生活の状況的に難しかったようですが、今は違います。地域と関わる必要性を感じ始めてきた人も多いそうです。エジウソンさんは「今は外国人を巻き込むいいチャンスだし、大事な時期」と教えてくださいました。 「より多くの外国人が頑張っている姿を見せれば、より早く多文化共生が達成できる。だれかが外国人を支援しないといけないのではなくて、自分たちでやらないと」と言うエジウソンさんの顔には、固い決意と希望が映しだされていました。

 「知ることの向こうに・・・」

日本に暮らす外国人として、"受け入れられている”という気持ちを持つことが大切だとエジウソンさんは言います。「知らない人からあいさつされたり、「新聞で見たよ」などと声をかけてもらったりすることで、もっとがんばろうという気持ちになれる。やっているほうはそこまで感謝されていると気づいてないかもしれないけどね」。 

多文化共生という言葉を耳にする機会が多くなってきた昨今、その言葉の裏側でみんなが"相手に”変わってほしいと思っていることを、エジウソンさんは見抜いているのでしょう。インタビューの終わりに、読者へのメッセージをお願いしました。「お互いのちがいを知ろう。変えられること、変えられないこと。受け入れられること、受け入れられないこと。知ることの向こうに問題解決がある。だから私は知りたいし、知ってほしい。」

 

*この記事は、2010年7月発行『たぶんか便り』創刊号の記事を元にしています。本文内の情報はすべて、発行当時のものです。

 

金城エジウソン・セイエイ

特定非営利活動法人ブラジル友の会代表。1998年来日。工場に勤務するかたわら、外国籍住民の支援活動を行ってきた。2000年に「ブラジル友の会」を立ち上げた(2007年法人格取得)。美濃加茂市定住外国人自立支援センター長を務める。

特定非営利活動法人ブラジル友の会 

〒505-0027 岐阜県美濃加茂市本郷町5丁目20番25号            Facebook:https://www.facebook.com/braziltomonokai/

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