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【個人インタビュー 001】ジェニファーさん(フィリピン出身)

2017年07月30日 20:58 by tabunka_tokai
2017年07月30日 20:58 by tabunka_tokai

フィリピン人のジェニファーさんは、日本人の名古(なご)さんとシンガポールで出会い、のちに結婚されました。1996年、ご主人と一緒に来日。現在、小学校3年生になるジェラメイちゃんと家族3人で暮らしています。昨年8月、愛知県吉良町に喫茶「きら」をオープン。「一日笑って歌ってそれでいい」と笑顔で話すジェニファーさんには、この十数年間の日本での生活を通して何が見えてきたのでしょうか?

(左:ジェニファーさん、中:ジェラメイちゃん、右:名古さん)

んなの居場所としての店

名古屋市内から車で走ること2時間、フィリピン人女性が経営するフィリピン料理のお店があると聞いて、好奇心に駆られておじゃましました。吉良町公民館に隣接するそのお店の名前は「喫茶きら」。店の正面にフィリピンの国旗が飾ってあり、中に入ってみると広いスペースに派手な装飾はなく、少し素朴な感じがしました。一面の真っ白な壁は、絵画などが展示できるように白くしたそうです。「近くに住む多くのフィリピン人女性が気軽に足を運んでくれるお店、一つのコミュニケーション空間として、また困ったとき相談しに来ることができる場所を提供したい」と語ってくれました。

フィリピン文化と日本文化

お店に入って数分もすると、初対面にもかかわらず、名古さんの情熱とジェニファーさんの明るい笑い声と歌声にその場が包みこまれました。ジェニファーさんに、日本に来てから最初に驚いたことを聞いてみました。「フィリピンでは休みの日はみんな外で話すのに、日本はだれも外にいない。みんなどこへ行ったの?」と笑い声をあげながらカルチャーショックについて話してくれました。また、日本に来て自分が変わったと思うところは、時間を守るようになったことだそうです。「初めは時間が守れなくてケンカもした。フィリピンではいつでも急がずゆっくりしたペースだけど、日本に住むなら日本人のようにしないといけないと思って、自分も約束した時間に遅れないように心がけている」。

 ジェニファーさんは「逆カルチャーショック体験」という話もしてくださいました。セブ島出身の彼女は、空港から家まで車で移動するのにかなり時間がかかるため、いつも空港の近くにある親戚の家に一泊していました。しかし、近年はホテルに泊まるようになったそうです。親戚はウチに泊まってもいいのにと言ってくれるのに、それに慣れないとも感じたのだと。「もしかして、日本に長く住み続けたために、自分も知らないうちに日本人の"人に迷惑をかけないように”と遠慮しがちなところが身についたのかもしれないね」と不思議そうに語ってくださいました。

 外国人ママとしての悩み

しばらくして、ジェラメイちゃんが帰宅しました。ジェニファーさんは、運動会のお知らせや時間割を片手に、「これら学校からのお便りは全部日本語で書いてあるので、私も他のフィリピン人のお母さんたちにはわかりません。学校行事に限らず、子どもの教育に参加しにくいんですよね」と言います。ジェニファーさんが日本に来て一番苦労したのはやはり言葉の問題だそうです。シンガポールにいたときは、ご主人と英語で会話をしていましたが、「ここ(=日本)に来たら英語で話してもあまり通じません。日本では日本語ができないと、何もできないんです。市役所へ行ったらポルトガル語訳はあるのに、英語訳はなかったんですよね」と。現在は、あるNPOに翻訳を手伝ってもらっているようですが、やはり日本では多くの市役所や学校などの公的機関では外国人に対応する体制が十分に整備できておらず、NPOなど民間組織に頼っているところが多いのでしょう。「人種とか関係なく、同じ人間だからみんな平等だし、これからシステムをよくしていけば、みんなが生きやすくなるはず」とジェニファーさんは言います。

 「このまま普通でいい」暮らしを

ジェニファーさんに日本での暮らしについて聞きました。「どの国でも富んでいる国だと上に見て、貧しい国だと下にみられるから仕方がないけど、せめて人と人の間の付き合いは良くなってほしい。人の気持ちが分かってほしい」と。今後の店の目標については、「お客さんがいっぱいいる時は楽しい。お客さんがいない時、やはりプレッシャーがある。でも、より多くお金を儲けるのではなく、このまま"普通”でいいでいいの」と、笑顔で答えてくださいました。

インタビューが終わってお店を出たところで、名古さんとジェニファーさん、ジェラメイちゃんの3人で一緒に「バイバイ」と言って手を振ってくださいました。このときのご家族のさんは、とても幸せそうなお顔をしていました。帰り道で、ジェニファーさんの「一日、笑って歌ってそれでいい」という言葉を思い出しながら幸せな気持ちになりました。

*この記事は、2010年7月発行『たぶんか便り』創刊号の記事を元にしています。本文内の情報はすべて、発行当時のものです。

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