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【団体インタビュー 004】コリアンネットあいち

2018年04月15日 19:04 by tabunka_tokai
2018年04月15日 19:04 by tabunka_tokai

「歴史」の糸を紡いでいく!~新たな時代の共生のかたち~

日本政府による朝鮮半島の植民地支配時から数えて、在日コリアンの歴史は大きく100年を刻みます。今や一世と呼ばれる世代も高齢化を迎え、介護の問題に直面している。NPO法人コリアンネットあいちでは、そのような問題に立ち向かうため、在日コリアン高齢者へのデイサービスに力を入れ、現在愛知県下において3つのデイサービスセンターを運営しています。このほかにも、障がい者の自立支援、子育て支援、社会教育、国際交流など活動は多岐に渡り、三世・四世といった新たな世代にも民族としての「誇り」を持って生きてほしいと日々奮闘しています。

日本に暮らす移民の背景も多様になり、グローバル時代を迎えた今日、100年もの歴史を持つ在日コリアンから学ぶことがたくさんあるのではないでしょうか。自身も在日コリアン二世である事務局長の金順愛(キム・スネ)さんにインタビューさせていただきました。

 (朝鮮の伝統舞踊を学んでいる子どもたち)

ハラボジ・ハルモニの憩いの場「マダン」

「自分たちのアイデンティティーを大切に、ゆったりと老後を送ってほしい」。そのような願いが形になったのが、デイサービスセンター「マダン(=広場)」です。日本における介護保険制度の始まりを契機に、コリアンネットあいちでは在日コリアンを対象とした介護保険事業を始めました。現在は、名古屋市北区、瀬戸市、東海市の3地域で、マダンを運営しています。

マダンでは、レクリエーションには朝鮮の伝統的な遊びや歌を取り入れ、昼食は朝鮮の家庭料理が提供されています。マダンの中では朝鮮語での会話もよく聞かれ、利用者さんのことを“アボジ(=お父さん)”“オモニ(=お母さん)”、あるいは“ハラボジ(=おじいさん)“ ”ハルモニ(=おばあさん)“と呼ぶなど、アットホームな空間づくりがなされています。金さんは、「今がいちばん幸せ。ここが帰ることのできない故郷の代わり、と利用者さんに言って頂くと本当に嬉しいです」と言います。「自分たちの知らない伝統や歴史を知る一世のアボジやオモニから勉強させて頂くことはたくさんあります。私たち運営者側も毎日が学習です」。

差別をしないこと=区別をしないこと、ではない

在日コリアンの高齢者の皆さんにとって憩いの場所であるマダンは、「ここに来るのが生きがい」と語る利用者さんも大勢いますが、現在の日本の介護保険制度による弊害もあります。コリアンネットあいちでは居宅介護支援事業所(ケアマネジャーが常駐する事業所)を運営していて、ケアマネジャーが一人一人の状況に合わせてケアプランを立てていますが、現在の介護保険のシステムは大企業が利用者を抱え込むことを防ぐために、ケアマネジャーが担当する人のうち90%が同じ通所施設に通うと、ケアマネジャーとその事業所がつながっていると判断されて、介護報酬が減算されるようになっていますす。コリアンネットあいちも例外なくその制度が適応されています。しかし、コリアンネットあいちでは「マダンを使いたいからケアプランを立ててください」とマダンの利用を希望して尋ねてくる在日コリアン高齢者が多く、現行のシステムのままではその全員の要望を受け入れられず、運営面でも厳しい状況が生まれているそうです。

金さんはこの状況を理不尽に思い、県に申し入れをしましたが、「外国人だからといって特別扱いはできない」との回答だったのだそうです。金さんは、「(行政の担当者は)“私たちは差別をしていません。だから同じくしてください”と言われますが、在日外国人が日本の社会の制度の中だけでやっていくのはハードルが高いです。差別をしないのは当然ですが、区別はしてほしい。今の日本の制度はマイノリティに対しての救済がなされないままのものが多いのではないでしょうか」と話してくれました。

 (デイサービス「マダン」での様子)

千羽チョゴリに思いを込めて

コリアンネットあいちでは、ボランティアのことを「ポラムティア」と呼んでいます。“ポラム”とは朝鮮語で「生きがい」や「やりがい」の意味であり、その単語を派生させ、ポラムティアとなったそうです。2011年3月11日に東日本を襲った未曾有の大災害では、「同胞だけではなく、とにかく被害に遭われた皆さんの励みになれないかなと思って」とコリアンネットあいちも被災者支援のために立ち上がりました。5月22日には新しくオープンしたばかりの、ゆめマダン(東海市)で「東日本復興支援 在日コリアン福祉フェア」と題したチャリティーイベントを開催し、イベントで得た収益を東海市の姉妹都市である岩手県釜石市と東北朝鮮初中級学校、福島朝鮮初中級学校に義援金として送りました。

また現在は、マダンに通っている利用者さんやポラムティアさんを中心に、千羽鶴ならぬ“千羽チョゴリ”を作って被災地に送り続けているそうです。色とりどりのチョゴリ、その一枚一枚に東日本への思いが込められています。「日本の伝統である折り紙と朝鮮の民族衣装であるチョゴリを組み合わせました。国籍の垣根を越えて、支援したい」そんな金さんたちの気持ちは必ず被災地に届いていることでしょう。

 (みんなで心を込めて折った千羽チョゴリ)

「自然と継承される伝統」から「教え伝える伝統」の時代を迎えて

在日コリアンも現在では三世や四世が誕生し、自分のルーツをあまり知らないで成長する人も多いのだとか。「先日、ウリハッキョ(私たちの学校=朝鮮学校)で伝統的な料理をメニューとした給食を生徒のオモニやポラムティアの協力を得て提供しましたが、葉っぱを包んで食べる習慣があることや、スプーンでご飯をよそうことなど、今までは家庭の中で自然と伝わっていたことを知らない子どもたちがいることに驚きました」と少し寂しげな表情で話してくれた金さん。「今までは自然と伝わっていた伝統や風習を教えていかなくてはいけない時代になったのですね」と。

また、「ニューカマーのコリアンはオールドカマーの私たちを別の民族のように捉えているようですが、大きな歴史を一緒に抱え、いずれは日本社会をともに変えていく仲間であることを彼らには忘れてもらいたくないですね。長期的には、在日外国人が地域で尊重し合える社会になることを望んでいます」と語ってくれました。

 (マダンのスタッフと利用者さんたち)

日本社会に向けての発信が肝心

インタビュー中、金さんは「私たちは日本社会に向けて常にコリアン文化を発信していかなくてはいけません」と繰り返し言いました。「コリアンの文化を伝えるイベントを定期的に開催していますが、日本人の参加者は少ないです。発信した情報は受け取る側がいて、はじめて意味をなします。現代の子どもたちには、コリアンの文化を理解・尊重して差別のない大人になってほしいです」と。

最後に、「一世は獣のように扱われ、二世は日本人に負けたくない、差別されたくないという一心で精いっぱい走り続けました。三世や四世の代になり、ようやく日本人と共に生きるということが実現されてきています」と金さんは微笑みながら話してくれました。長い時間を経て日本人とコリアンが「共に生きる時代」を迎えた現在。これからも、この長い歴史の上に創られた貴重なバトンを後世に渡していかなくてはならないと思います。

 

*この記事は、2011年9月発行『たぶんか便り』第4号の記事を元にしています。本文内の情報はすべて、発行当時のものです。

 

NPO法人コリアンネットあいち                     〒462-0825 名古屋市北区大曽根4丁目6番60号             URL:http://www.kn-aichi.or.jp

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