新しい命を迎えて〜日本で出産・子育てする外国人ママ〜
日系ブラジル人の門馬千秋(もんま・ちあき)さんと中国出身の周蔚(しゅう・い)さん。門馬さんの息子の大輔くんは生後9カ月で、現在は仕事と育児を両立しようとがんばっています。周さんは現在妊娠8カ月で、赤ちゃんの誕生を心待ちにしています。ある日の夕方、門馬さんのご自宅でお二人にお話を聞きました。
(左:門馬さん、右:周さん)
母子健康手帳から始まる
病院やクリニックに検査へ行って、妊娠がわかると市役所で母子健康手帳を受け取ります。手帳には、母親用と赤ちゃんの成長記録用の2冊があります。周さんは、母親用は中国語版を、成長記録用は中国語版がないために日本語版を使っていました。一方、門馬さんは両方ともポルトガル語版を使っていました。この外国語版の母子健康手帳は日本語版のものよりサイズが大きく、小さな鞄には入りません。周さんは「携帯するのが不便だから両方とも日本語版にしておけばよかった」と言います。
(ポルトガル語版の母子健康手帳)
妊娠時は、もちろん外国人でも、日本の病院やクリニック、市の保健所が提供するサービスを無料や少額負担で利用することができます。周さんは、保健所の「マザークラス」に3回、病院で行なう講習にも3回通ったそうです。そこで、妊婦の栄養バランスを確認したり、赤ちゃんのおむつ替えやお風呂の入れ方などを教わりました。「果物の食べすぎは体を冷やしたり糖分の取りすぎが赤ちゃんの体重増加を招いたりするので控えるようにと、栄養士さんに注意されました」と笑いながら話してくれました。また、中国出身の旦那さんもパパ向けの妊婦体験講座に参加したそうで、赤ちゃんと同じくらの重さのものをお腹に巻いた写真を見せてくれました。
門馬さんは妊娠時、「ままプチさろん」でヨガを受けたことがあるそうです。その他の講習は、いつも満員になっていて参加できなかったのだと。これらの講習や教室について、二人は「参加者の中で、外国人はいつも自分一人だけだった」と言います。「自分は日本語ができるから講座にも参加しやすかったけど、日本語ができない外国人だったら、自国に帰って出産する人もいるんじゃないかな」と門馬さん。「実際に、私の知り合いの中でもそうした人がいるよ」と周さんは答えました。
日本での便利さと不便さ
日本の「出産育児一時金」は、出産費用の負担が減るのでとても助かると二人は言います。また周さんは、「日本だと、旦那さんが出産に立ち会える!」と、とてもワクワクしているそうです。「中国では、出産に旦那さんが立ち会うことはあまり聞いたことがありません。それに、中国では出産直後の感染を防ぐために、すぐに赤ちゃんと母親を引き離して、数日経った後で面会させます。日本では、生まれてすぐに赤ちゃんを抱っこしたり、母乳をあげたりすることができると聞きました」と、楽しみにしている周さん。
門馬さんは、「日本の授乳室にある設備がステキ!」だと言います。「ある空港の授乳室には授乳用にソファーやお湯が置いてあったし、別の施設ではミルクを無料で提供してるって聞いたの」と。
そんな二人に、自国のことについて尋ねてみました。
「ブラジルでは出産前にパーティーを開いて、親戚や友人からベビーグッズやオムツなどのプレゼントをもらったり、大きくなったお腹に人の顔の絵を描くゲームをしたりします。それから食事については、傷口が化膿するから卵と豚肉は避けたほうがいいと言われているんです」と門馬さん。それを聞いた周さんは少し驚いた様子で、「えー、中国では大丈夫だよ〜」と。
一方、中国では妊婦が出産後の1か月間をかけて行う「坐月子(ズォユエズ)」(注)という、体調を回復するための習慣をとても大事にしているのだと周さんは教えてくれました。例えば、母乳がよく出ると言われる料理を食べたり、髪の毛を洗ってはいけないなど、いろいろあるそうです。人の体質にもよりますが、中国では出産後の女性が髪の毛を洗うと片頭痛になると言われているのだとか。これには門馬さんがビックリ。「1か月も髪を洗わなくて我慢できるの!?」と唖然とした表情で返します。
注:産後1か月の間に行われる習慣。外気に当たってはいけない、電子機器を使用してはいけない、水に触ってはいけないなど、食事をはじめ日常生活に関する様々な決まりごとがある。
また、周さんは日本人女性が出産直後に「里帰り」することに驚いたと言います。「誕生直後に1,2カ月ぐらい父親と離れるのは、赤ちゃんの顔を見たいお父さんにとっては可哀そうじゃない」と。門馬さんは、「今は多少変わったみたいだけど、以前は日本人男性があんまり赤ちゃんを抱っこしないと聞いて不思議に思っていた」と話してくれました。
子育てと仕事をめぐって
門馬さんに、子育てで苦労したことを聞きました。「昨年12月に大輔が生まれてから最初の3,4ヶ月は自分一人で面倒を見ていたので、どこに行くにも子どもを連れて行かないといけないことに苦労しました。今年3月にブラジルから母が来てくれて、6月には入れ替わりで義理の母も手伝いに来てくれました。今は近所の託児所に子どもを預け、仕事に復帰しています。日本では、共働きじゃないと生活が厳しいですからね」と。周さんもすでに自分の母親を中国から呼び寄せるために入国管理局に申請書類を出していて、お母さんの帰国後には義理の母親に来てもらおうと考えているのだそうです。「坐月子」のこともあって、もともと料理や赤ちゃんの面倒などは一人ではできないし、やるべきではないと考えているからと。
最後に、二人にお互いへの応援メッセージをお願いしました。
門馬さん→周さん
電話してね。いつでも相談に乗るよ!
周さん→門馬さん
よく寝て、無理しないでね!
*この記事は、2011年9月発行『たぶんか便り』第4号の記事を元にしています。本文内の情報はすべて、発行当時のものです。(追伸:現在、二人のお子さんはすくすく元気に育っているそうです。)
門馬千秋(もんま・ちあき) ブラジル出身。仕事をきっかけに来日。平成21年度愛知県委託「多文化共生実践モデル支援事業」にて半年間、当団体のスタッフを務める。2010年12月に長男大輔くんを出産。
周蔚(しゅう・い) 中国出身。大学院への留学をきっかけに来日。卒業後は日本の企業に就職。平成21年度愛知県委託「多文化共生実践モデル支援事業」にて半年間、当団体のスタッフを務める。
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