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【団体インタビュー 007】一般社団法人グローバル人財サポート浜松

2018年05月25日 14:40 by tabunka_tokai
2018年05月25日 14:40 by tabunka_tokai

外国人介護ワーカーの育成を目指す

外国人集住都市の一つとして知られている浜松市。2008年のリーマンショック以降、多くの外国人労働者が失業に追い込まれ、製造業以外の仕事の機会が求められるようになりました。その一つが、介護現場です。浜松市内に拠点を構える一般社団法人グローバル人財サポート浜松では、2011年から外国人介護ワーカーの育成を始めました。日本社会の急速な高齢化に伴って、介護現場では慢性的な人手不足が深刻な問題になっています。外国人の定住化傾向が高まっていることから、多言語での介護サービスの提供の必要性も年々増していて、外国人介護ワーカーの存在は単なる労働力としてだけでなく、日本社会と在住外国人を繋げる“架け橋”の役割を果たすことが期待されています。グローバル人財サポート浜松が外国人介護ワーカーの育成に携わることになったきっかけや、具体的な活動内容についてお話を伺いました。

 

介護ワーカー養成のきっかけ

日系ブラジル人の中島イルマさんは、5年前から財団法人浜松国際交流協会に関わり始めました。そこで3,4年ほど外国人児童の支援に携わる間に、子どもたちが将来に目標を持てていないことに気がついたそうです。特に、2008年秋のリーマンショックによる両親の失業が、直接的に子どもの教育にも悪影響を及ぼしました。学校へ行けなくなったり、給食代を払えなくなったりすることに加え、自分が将来何になりたいかという希望が見出せなくなっていました。子どもは親の背中を見て成長親へします。イルマさんは、親への支援が必要だと痛感したと言います。

経済不況のあおりで工場労働者としての仕事が難しくなっていたため、仲間と共に新たな道として介護職への就労支援を行うことを決めました。2011年1月にグローバル人財サポート浜松の立ち上げに関わり、6月から介護のための日本語講座を始めました。この講座では、介護の専門用語や簡単な介護技術を教え、さらに受講者が介護ヘルパー2級の資格を取得できるよう、必要な日本語学習のサポートをしています。イルマさんご自身も3か月間の猛勉強を経て介護ヘルパー2級の資格を取得したそうです。こうした彼女の経験は、同じ外国人受講者の資格取得を励ますのに説得力をもつとともに、受験の辛さや大変さも共感できる点で大きな意味をもつようです。

日本語講座

インタビュー当日、「介護に携わる外国人のための日本語教室」(文化庁委託事業)を見学させていただきました。講座は職場等での会話と専門知識のための日本語を学ぶ二部構成となっています。日本語の授業が終わると、イルマさんが受講生たちと話し合う場が設けられていました。ここでは、実際に介護現場であった問題や対人関係など、ポルトガル語やスペイン語で話し合います。この時間を通して、受講者は互いに仕事の悩みやプレッシャーなどを分かち合うことで、ストレスを解消することができるそうです。

イルマさんにこれまでで印象深かった出来事を聞いたところ、ある元受講生について語ってくれました。その女性は、介護の仕事に疲れ果てて自殺までも考えていましたが、この講座のおかげで「自分が抱えていた悩みや苦しみは、私だけじゃない」とホッとしたそうです。最初は相手の日本人の意地悪やいじめだと思っていたことが、講座受講を通じて単なる文化の違いなどによる誤解だとわかり、気持ちを切り替えることができたと言います。

グローバル人財サポート浜松では、他の目的でも日本語教室を開催しています。その中で興味深かったのは、「親子で日本語」という教室です。学校の宿題や授業で困っている子どもたちだけでなく、両親も一緒に教室に参加することができます。親子で同時に日本語を勉強できると、親子のコミュニケーションの促進にもつながります。さらに、日本語のプライベートレッスンも行なっているそうで、日本語学習機会の多さに驚きました。浜松市には外国人が多いため、ボランティア団体による無料の日本語教室も少なくありません。そうした中で、自団体がどんな特色を打ち出せるかを考えて、相手のニーズに応じた日本語を教えることを考えた結果、新しい教室づくりにつながったと言います。例えば、「以前、レストランを経営しているペルー人夫婦が、お客さんにメニューを紹介するための日本語を勉強したいと言ってきた」ということもあったそうです。このようにグローバル人財サポート浜松では、南米人に限らず、韓国人や中国人からの依頼にも応じています。

介護をシェアしよう

代表理事の堀永乃(ほり・ひさの)さんにもお話を伺いました。介護事業に関して難しいと思うところは、外国人に介護ケアを受けることに対して偏見を持っている介護施設が多く、外国人介護ヘルパーの受け入れに協力してくれる施設がまだ少ないそうです。しかし、すでに外国人を雇用している介護施設では、雇用主や利用者の家族が外国人介護ヘルパーに信頼を寄せているといいます。堀さんは、「どのように日本人と外国人双方の先入観や偏見をなくすのか。それにはやはり、相互に交流できる場を設けるべきだ」と考えています。グローバル人財サポート浜松では、2013年2月14日に浜松で介護に関する国際シンポジウムの開催を企画しています。これは介護施設関係者だけでなく、要介護者を抱える家族や、介護に関心をもつ在日外国人などに参加してもらい、外国人介護ワーカーの受け入れに関するノウハウを共有するためです。

また堀さんは、将来的には浜松市以外の地域にも活動を拡げたいと考えているそうです。「工場の仕事は“3K”(きつい、汚い、危険)と言われますが、時に人の死を看取ることもある介護の仕事は、最も「神様に近い領域」だと思っています。だからこそ、外国人介護ワーカーの育成にやり甲斐を感じているんです」と。

 

受講者の声

尾崎スエリさんは介護の仕事を始めて3年4ヶ月になります。その前は17年間、工場で仕事をしていました。スエリさんにこの講座に継続して通っている理由を聞くと、「授業で習う介護の専門用語と漢字は難しいけど、ここで助かるのは、みんなで悩みを話し合うことができることと、何か困ったことがあればすぐここに電話することができることです。もちろん、自分に負けたくないという気持ちもあります」と答えてくれました。今の職場で働く外国人はスエリさん一人だけで、日本人の同僚と同じ様に扱われていると感じていると言います。スエリさんはブラジルにいた時に看護師になる勉強をしていたので、介護の仕事にはすぐ慣れたそうです。今後についてスエリさんは、「介護福祉士の資格を取って、将来はブラジルに帰って友達と一緒に施設を開きたい」と夢を語ってくれました。

 

*この記事は、2012年10月発行『たぶんか便り』第7号の記事を元にしています。本文内の情報はすべて、発行当時のものです。

 

一般社団法人グローバル人財サポート浜松                 〒430-0933静岡県浜松市中区鍛治町1-64育栄ビル3F           URL:http://www.globaljinzai.or.jp/

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