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【団体インタビュー 009】華豊の友

2018年05月25日 10:33 by tabunka_tokai
2018年05月25日 10:33 by tabunka_tokai

いまだからこそ、私たちの出番!

新年快乐!(=あけましておめでとうございます!)

華やかな音楽に色とりどりの民族衣装を身にまとった女性たち。中国の旧正月「春節」の様子を観たことがある方も多いのではないでしょうか。豊田市内を中心に活動する中国人コミュニティ「華豊の友(かほうのとも)」のダンスチームも、春節などのイベントで舞台を飾るグループのひとつで、こうしたイベントなどを通して日中文化交流の促進を図っています。

華豊の友は、2013年4月から中国・内モンゴル自治区での植林活動を始めました。日中関係が複雑だと言われている昨今、日本からの植林ツアーの実施には懸念の声も多かったと思います。そんな中、なぜ植林活動を始めたのでしょうか。そして幅広い活動を9年に渡り継続させることができているのはなぜなのでしょうか。同会会長の任利民(ニン・リミン)さんにその思いや活動継続の秘訣を伺いました。

 

 

この地域で暮らす市民の一員として

任さんに、華豊の友の設立経緯を尋ねました。「中国人が豊田市にやって来て暮らし始めたころ、日本語もわからない、友達もいないという状況で、日常生活の一つ一つが困難なうえ、非常に孤独でした。そんな時、財団法人豊田市国際交流協会(現・公益財団法人。以下「TIA」)が主催する日本語教室や交流会に呼んでもらい、中国人同士の横のつながりや、日本人とのつながりができました。日本での生活に馴染み、ようやく自立することができました。今度は自分たちも豊田市で暮らす市民の一員として、何かできることはないか、助けてもらったこの地域の人たちに恩返しがしたい、そんな思いから中国人で集まってグループをつくりました」。そして任さんたちは、ボランティア事業を行う財団法人あすて(現・公益財団法人。以下「あすて」)の職員でもある中国人メンバーを通じ、同法人の協力を得て2004年に華豊の友を設立に至りました。

できることから

任さんたちは、「どのような活動を通して地域に恩返しをしようか」と考え、まずは自分たちでできること、みんなで楽しめることからと、餃子作りなどの料理体験を始めました。そして、歌や踊りなどを通して文化紹介をするため、コンサートを開きました。TIAで、各国の文化を紹介する「ナショナルデー」 というイベントが開催されています。華豊の友も「中国デー」に、 毎年テーマを変えて出演しています。発表の場が増えるにつれ、 華豊の友のダンスチーム「華豊歌舞団」の評判が広まり、今では豊田市内だけでなく各地のイベントから声がかかるようになったそうです。

(設立当初から続けている餃子作り)

(TIA中国デーでの記念撮影)

また、中国につながる子どもたちが母国に誇りを持ち、将来日中の架け橋となれるようにとの願いから、子ども向けの中国語教室も開催しています。その他、日本人向けの中国語教室の開催やスポーツ交流など、活動の幅が広がっているようです。

(子ども向け中国語教室の様子)

活動継続の秘訣

これだけ幅広い活動を展開し、長年継続していくにはさぞご苦労があったと思います。「任意の活動にメンバーが継続的に関わっていくことの難しさというのは、市民活動をした経験のある方なら誰もが直面する問題だと思います。しかし、華豊の友の設立メンバーのほとんどは今でも活動を継続していて、メンバー数も設立当初の10人から現在では50名にまで増えています」と誇らしげに語ってくれた任さんには、ある印象的な出来事があったそうです。

「2007年に、あすての助成を受けて国際コンサートを主催しました。出演者数100名以上、来場者数220名以上という大規模なイベントです。音響や照明など、何をするにしてもプロに頼むと高額な費用がかかるので自分たちでやってみよう!と、メンバーそれぞれが役割を担ってやりました。裏方から司会まですべて素人のメンバーによる手作りのイベントでしたが、当日来場された駐日中国総領事から『任さんは中国でイベントプロデューサーをされていたんですか?』と聞かれるほど完成度の高いものになりました。それ以来、華豊の友のイベントは、すべてメンバーで運営しています。みんな役割を持てば、責任を持ってやってくれる。やればできる!という手応えが自信につながりました。メンバーみんなが役割を担うことで、やりがいを感じられる。メンバー同士の結束が固まり、メンバー自身が楽しいと感じる。そのサイクルが、華豊の友の活動継続の秘訣ですかね」と、団体にとってのターニングポイントを教えてくれました。

(2008年に中国で発生した四川大地震の復興支援コンサート)

夢が現実になった植林活動

2013年から、華豊の友はまた一つ新しい活動を展開しています。それは、中国・内モンゴル自治区での植林活動です。「毎年、春になると日本にも飛んでくる黄砂。母国である中国が日本に迷惑を掛けているので、中国人として何かしなければと思って」と任さん。とはいえ、植林活動は莫大な費用と労力を要するものです。「今すぐには難しいけれど、数年後には実現できればと思っていたんですよね」と夢見ていたある日、あすてから華豊の友の今後の活動において、何か大きな目標を立ててはどうかと提案を受けたそうです。そこで任さんは、かねてからの思いだった植林活動の構想を話したところ、あすての理事長から「そんないいアイディア、どうしてすぐやらないの?すぐに現地調査に行きましょう」と背中を強く押されたのだとか。現実的ではないかもと思っていた植林活動が、急速に動き出しました。「中国には『騎虎難下』っていうことわざがあって、乗った虎から降りられないっていう意味なんだけど、日本でいう『乗りかかった船』と同じような意味です。正にそんな感じで、降りられなくなっちゃった」と笑いながら話す任さん。 その後、企業からの協賛も得て、4月25日〜29日の5日間、約30名の日本人と約 20名の中国人が力をあわせ、内モンゴル自治区での植林活動を行いました。任さんたちの思いは、ここに現実のものとなったのです。

今だからこそ、私たちにできることがある

植林活動を実現するにあたって、すべてが順風満帆だったわけではありません。日中関係が悪化しているという報道もある今、中国で活動を行うことに対する懸念の声が圧倒的に多かったそうです。なぜ今やらなければいけないのかという声に対し、任さんは「こういう時だからこそ、私たち市民にできることがあるのではないか」とその意義を説きました。「政府同士の関係は私たち市民にはどうすることもできないけれど、私たち両国の市民同士の理解を深めることはできる。そうした草の根の活動で、日中友好の基盤をつくっていきたい。」それが任会長の思いでした。ただし、ツアーの実施には安全の確保が求められるため、事前に綿密な調査を行いました。「中国側の状況を調べると、民間では日本の報道で見聞きするほどの騒ぎにはなっていませんでした。中国の報道も同じで、テレビで日本の過激な反中活動の様子を観た友人から、『日中戦争がはじまるぞ!早く帰って来い!』なんて言われる(笑)。報道が騒ぎを大きくしているだけなんですよね」。こうした報道によるイメージが、人々にお互いの国への誤解を与えてしまうことは、だれにとっても非常に残念なことです。だからこそ、政治や報道にとらわれず、市民同士が交わることによって、その誤解が解ければと任さんは活動の意義を強く感じました。

(各地のイベントにひっぱりだこの「華豊歌舞団」は練習熱心)

植林活動の目的は、砂漠緑化にとどまりません。「むしろ、広い砂漠という大自然に対して自分たちができることは、ほんの小さなことでしかない。けれど、日本からのボランティアが中国の砂漠に木を植えに来たというその事実が、中国人の日本人に対する印象にもたらす影響は大きいと思います。日ごろ、華豊の友は日本で地域活動を行うことにより、日本人の中国人に対する印象をプラスのものにしています。植林活動によって、お互いのイメージアップにつなげたいんです」と任さんは言います。

そんな華豊の友の今後の目標についてお聞きしました。「華豊の友という組織は、あくまでもひとつの形。形は何であれ、私たち日本で暮らす中国人が、日中の架け橋になっていけたらと思います。日本で暮らしているからといって、まるっきり日本人になりきるのではなく、中国人として母国の文化を大切にしながら、それを日本社会で活かしていく。それこそが、私たち日本で暮らす中国人の生き甲斐になると思います。それが、私たちの子ども、孫の世代にもつながっていけばいいなと思っています」。

(名古屋春節祭での舞踊披露)

植林活動のその後

インタビューから数日後、任さんからこんな連絡をいただきました。

植林活動は日本人と中国人が協力し合い、終始笑いの絶えない非常に楽しいものとなりました。ただ、せっかく植えた苗も、牛や馬の餌になってしまう危険性があります。そこで、「あすての森中国事務局」1名を配置し、遊牧民を雇用して植林のその後をフォローする体制をつくりました。来年以降も一年に一度植林ツアーを敢行するので、ぜひ、あすてのホームページをチェックしてください。

みなさん、ぜひこれからも、華豊の友の活動にご注目ください。

*この記事は、2013年10月発行『たぶんか便り』第9号の記事を元にしています。本文内の情報はすべて、発行当時のものです。 

華豊の友(かほうのとも)                        〒473-0911 愛知県豊田市本町本竜 43 公益財団法人あすて内        TEL:0565-52-0362 FAX:0565-52-0363                URL:http://www.aste-toyota.jp/kaho/kaho_j.html

 

 

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