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【個人インタビュー 013】薛燕さん

2020年07月09日 15:51 by tabunka_tokai
2020年07月09日 15:51 by tabunka_tokai

名古屋市守山区で新疆ウイグル家庭料理店「香膳(カゼン)」を経営する薛燕(ショウ・イエ)さん。料理のおいしさはもちろんのこと、一度来店すると何度も来たくなる魅力がたくさん詰まっている「香膳」。その秘密はショウさんの素敵な人柄にあります。お客さん、ご近所さん、誰からも愛されているショウさんにお話をうかがいました。

 

 

日本への道

ショウさんが初めて日本へ来たのは、今から20年前の1995年。ふるさとはハミウリの産地として有名な新疆ウイグル自治区クムル地区のハミ(哈密)です。「町が小さい。外に行きたい」とずっと思っていたというショウさん。ショウさんが33歳のときに、先に妹さんが来日。「チャンスがあれば外に行きたいと、日本語や英語を勉強していました。現在、東京で漢方薬の先生をしている妹のツテで日本に来られることになりました」。

その後、友人の紹介で名古屋にある中京大学へ留学。1年間日本語を勉強しました。その間にご主人に出会って結婚、日本で暮らすこととなりました。

生い立ち

故郷でのショウさんの家族は7人。「兄2人妹2人という兄妹の中で育ちました。「両親に病気があったため、9歳の頃にラグ麺や肉まん、餃子などの作り方を教わり、その後ずっと家族の食事を私が作っていました。そのため、学校にはあまり行けませんでした」というショウさん。

ご両親が亡くなってから勉強したいという思いが募り、中国の大学に進学しました。「自分の人生を頑張りたい。これまでずっと家族のために料理をしてきたから、当分料理はしたくないし、見たくない。そう思って勉強して大学を卒業して、ハミで会社を作りました」。

当時、ハミでは政府が投資して建物をたくさん作りました。ショウさんは家の内装(電気、壁紙、タイルなど)に必要なものを調達するビジネスを手がけ、成功しました。「そんな頃、妹が日本へ行きました。自分も行きたいと思い続けていたところ、日本へ来るチャンスを手に入れました」。

留学から

留学中、肉まんや餃子を食べたいと思うことが何度もありました。「日本の肉まんを食べましたが、自分で作ったものとは違うと思いました。そこで、蒸し器を買って自分で作り、近所の人や友達に持っていったら、美味しい美味しいと言ってくれました。『なぜお店をやらないの?』とも度々言われました。でも、お店をやるにはお金がかかるでしょ。」

そんな折、妹のご主人が、出資してくれることになりました。「日本に来てからも何かやりたいと考えていました。」というショウさん。友人の紹介で、現在の店舗に出会い、2008年に営業を開始しました。「最初は店内すべてがカウンターで、商品も肉まんのテイクアウトのみでした。お客さんも少なかった。私はラグ麺、餃子など何でも作れたので、サービスでお客さんに食べてもらっていたら『なぜメニューにしないの?』と言われるようになりました」。

その後、お店での同窓会開催の依頼を受けて、近所から机・椅子を調達してきたことをきっかけに、2012年に店内を改装することになりました。「今では山形や横浜、大阪など遠方から訪ねてくれる人もたくさんいます。一日に二度来店してくれた人もいるのですよ。」

コミュニケーションから生まれるもの

「先日、手話をするお客さんが来店しました。子どもさんの入学式の後だったようなので、お祝いの気持ちを込めてラグ麺、餃子とたくさん作ったところ、手話で『美味しい美味しい』とたくさん言ってくれました。言葉は話せなくても身振り手振りで会話できたことが嬉しかったです。」

お客さんとコミュニケーションを取っている時の店内にただよう場を包み込むような温かい雰囲気が好きだというショウさん。以前には、旅行でショウさんの故郷を訪ねるという青年の滞在中の宿泊先や食事を手配したこともありました。「せっかく故郷を訪ねてくれるのだから、自分にできることは何でもやってあげたいと思いました」というショウさん。

“人のために”と相手を想うショウさんの優しさは周りの人々を惹きつける魅力の一つだと思います。

経営へのこだわり

「無添加の良いものを素材の味を活かして料理しています。ラグ麺は機械を使いません。餃子も一個一個手づくりしています。だから、他のものとは生地から全然違うんですよ。厨房をきれいに掃除したり、すべての料理を手作りしたりするのは大変です。苦労はありますが、心の中は幸せです。毎日幸せと言っていますし、そういうことが大事だと考えています。」

週末はお客さんが多く、特に忙しいと言います。「ある時、娘が『お母さんのお店では、お客さんの方からありがとうと言ってくれるんだね』と驚いていることがありました。娘はコンビニでアルバイトをしていますが、いつも自分の方からありがとうございますと繰りかえしているそうです。でも、このお店では逆です。お客さんがキッチンに聞こえるように大きな声で『ありがとう』と言ってくれます。私はお客さんに満足してもらうことを大切にしていています。お金を払った分の価値が得られないと嬉しくないですよね。『おいしい』と食べて満足してもらうことが大事だと考えています」というショウさん。良いものをお客さんが満足するまで提供したい、ショウさんのそのこだわりがたくさんのリピーターを生み出しています。

思いがけないプレゼント

人々とのコミュニケーションを大切にし、お客さんの満足を第一に考え、惜しみないサービスを提供することを心がけている。そんなショウさんの人柄を象徴する出来事がありました。

「先日、私の誕生日前に常連さんから20名の予約がありました。そうしたら、なんと食事の最後にバースデーケーキで誕生日をお祝いしてくれたのです。とても感動しました。また、お店のオープンや改装の時には、近所の方が胡蝶蘭や長机をプレゼントしてくれました。お店を起業する前は、近所の人によく食事を持って行ったり、子ども同士が遊んだりもしていました。今は忙しくて、近所の方と食事をしたり遊んだりする時間がなくなってしまったことが残念ですが、お店で皆さんの笑顔を見られることが幸せです。」

将来の夢

若い頃は、サッカーをやりたい、自分や家族のこと題材に小説を書きたいなど、様々な夢があったというショウさん。「今の夢は?」との筆者の問いかけに「今はもう若くありません。私は日本に来て夢を実現しました。今の夢はこのお店だけです。たくさんの人に私のつくった料理を食べてもらいたい」と清々しい笑顔で答えてくれました。

 

*この記事は、2015年5月発行『たぶんか便り』第13号の記事を元にしています。本文内の情報はすべて、発行当時のものです。 

 

香膳(かぜん)                             〒463-0017 名古屋市守山区喜多山2丁目2-14              ※名鉄瀬戸線「喜多山」駅下車徒歩1分                  TEL:052-795-4133                           OPEN:11:30~14:00、17:30~21:00 火曜定休              URL: https://www.facebook.com/silkroad.kazen

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