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【団体インタビュー 011】NPO子どもと女性のイスラームの会

2020年07月09日 15:53 by tabunka_tokai
2020年07月09日 15:53 by tabunka_tokai

2010年10月、日本で国際テロ捜査情報が流出しました。日本に在住する敬虔なイスラーム教徒が事実無根の疑いをかけられました。その中では、子どもたちが「ホーム・グローン・テロリスト(家庭内で培養されているテロリストたち)」とされていました。そのような状況の中で、NPO子どもと女性のイスラームの(Children and Women Islamic Association)会代表の戸谷さんは2010年8月に団体を発足しました。

 「イスラームにつながる人々とその地域で共に暮らす人々が顔のみえる関係をつくり、ゆっくり、じっくりイスラームをわかってもらえるようにという思いからです」と言います。地域に根差した主な活動としては日本語教室、絵本読み聞かせ、ハラールで作る名古屋飯の料理教室、地域の活動グループ等と協力して、子どものための子どもが演奏するJAZZコンサートの運営支援や、個人としてASEANからのムスリムのホームステイ受入等と多岐に渡ります。また法人向けにハラール相談事業も行っています。今回は代表のマリアム戸谷玲子さん、事務局長のニムラ赤尾奈美さんにお話しを伺いました。お二人は国際結婚を機にイスラームへ改宗された女性たちです。

 (左、事務局長の赤尾さん 右、代表の戸谷さん)

 

 

氾濫する情報の中で

国内ではまだまだイスラーム、ムスリム、ムスリマ(頁下部の【用語解説】参照)について知識を得たり、彼ら彼女らと接する機会が少ないため、メディア等からの情報で影響が生じることがあるといいます。「2013年1月のアルジェリア人質拘束事件のあった頃、いろいろなものが差し止めになりました。イスラームと名前が付くだけで助成金も取れませんでした。しかし最近では、観光業でイスラームの人や国が注目され、観光に来る人数が多いのはムスリムだという認識が広がった瞬間にウェルカム!と対応が変わってしまいました」と、戸谷さん。メディアの報道に振り回されることが多くあり、未だにハラールとして扱われた中に間違っている情報があり訂正を繰り返し続けているそうです。

本当のムスリムフレンドリー

「ムスリムフレンドリー」という、世界約17億人いるイスラーム教徒の人たちに日本を知ってもらうための受入企画が展開されていますが、当事者として課題を感じているそうです。「既存のシステムを変えるには時間がかかります。ハラールを指導する特にムスリムではない公的機関の日本人側は、『あれはダメ。』『これはこうしてください。』と言いますが、きちんとした指導ができず、あやふやになっていると感じます。『経済活性化の為にムスリムには来てほしいが、ハラールのことはよくわからない。でも、フレンドリーにしましょう』というのは容認できないと感じています。当事者の私達の意見を取り入れてもらい、それに基づいてやっていけたらと思っています。」

(ハラール認証マークのついたもの)

では、日本が真のムスリムフレンドリーな国になるために、日本人に大切にしてほしいことは何でしょうか。

「日本人は難しく考えすぎてしまっています。もっと楽な気持ちで受け入れてもらえたら嬉しいですね。コミュニケーションが大事だと思います。多文化なインドやヨーロッパでは、ムスリムでない人はムスリムのところに入り込もうとはしません。一方で日本では、ムスリムでない人がムスリムの教義に入り込んで、〝私たちはムスリムフレンドリーです!” と言っています。ムスリムの私たちからすると、ムスリムではない人が「これはハラールです、これはちがいます」などと言っていることにとても違和感を感じます。いい加減に取り扱ってはいけないけど、自分とは相容れないという線を引いていることで、真のムスリムフレンドリーの概念が生まれていないのかもしれません。日本人は仲良くしたいから(相手の意見を聞く前に)自分から何でも提供しようとしてしまっていると思います。仲良くするなら相手を尊重する、仲良くするなら相手を愛するのが大事です。」

世界のイスラームと日本のイスラーム

国際結婚を機にイスラームに “改宗”されたお二人。“必然的” にイスラームの家庭で育つことになる子どもたちについてどんな想いを持っているのでしょうか。

「多くの子どもはここ(日本)で育ってイスラームを信仰しますが、日本人です。イスラームが周りからあまり良いイメージを持たれていない中で、同時に日本人としてのアイデンティティを保持することは難しいです。世界を見渡すとどの国にも移民が来ていて、今日は給食がハラールだったとか、街に出ればお友達とハラールのハンバーガーを食べようという選択ができるところもあります。しかし、日本ではまだできません。子どもたちがどこにお友達と遊びに行ってもハラールの環境があるようになることが目標です。それしか食べられないことを、かわいそう、残念ねと思われないようにしたいです。食べものは人間にとって大事なものです。お友達と同じものが食べられる安心感、例えばショッピングモールのフードコードにハラールが1つある希み。同じものが食べられなくても同じ場所で食べられる、にこやかに過ごせる輪に入れたら良いと思います。言葉、食べ物、生活習慣を尊重し合ってお互いを認め合ってほしいです。」

(名古屋市中村区で開催された、人権講座「ハラールを食べよう!」の様子)

当事者を大事にする

多様な活動を多くの方と展開されている、子どもと女性のイスラームの会さん。多種多様な取り組みをされる中でポイントとなっているのが “当事者” というキーワードです。親子で楽しむ外国語での絵本の読み聞かせ会、子どものための子どもが演奏するジャズコンサート、ASEANからのホームステイ受入れでも、〝当事者" ということをとても大事にされています。読み聞かせを外国人自身がされている理由について、「実際に人に会って頂くことを大切にしたいと思っています。実際の私たち、当事者とふれあわずにいろいろな物事が進んで結論が出てしまっている気がしています。本物にふれあっていただこうということが私たちの主旨です。」と、お話ししてくださいました。

(マレーシアのご家族による絵本の読み聞かせの様子)

 ASEANからたくさんホームステイの希望がある中、なかなかムスリムを受け入れられる家庭がない。

「日本人にはイスラームで大事にしていることがまだまだ理解されていないのです。ムスリムの人にしてみれば日本に来てみたい、来たからには日本食が食べたい、でも戒律は守りたいのです。あるアルジェリアの留学生は餃子、ラーメン、肉まんを食べたことがなくて、あれはなんだろう?すごく宣伝もしているから食べてみたい!と思っていましたが、ハラームだからと諦めていました。そこでハラールでそれらを作ったらとても喜んでくれました。まだまだ上手く伝えきれていませんが、ホームステイを受け入れている家族に日本食も工夫次第でハラールで作れることをもっと伝えていきたいと思っています。」

戸谷さんは「日本に来て、日本の魅力を全然知らずに帰って行く人がまだまだたくさんいます」と言います。「日本の食事を食べてみたいという相手の気持ちを大事にすることが、当たり前になることが必要だと思います。」

“選択できる人” になるために

どこに行ってもハラールとハラームがあります。手で何かを叩けばハラーム。でも手で美味しいものをつくったり、子どもを抱くなど、可愛がったりするのはハラール。私は子どもたちにハラールを選べるように育てたいと思っています。どこの場所に行っても自分で選べる人に。お酒の出る場所やファミレスなども行くこともあります。そこでお酒を飲んでにこにこしてその後もどこかへみんなと遊びに行くとなるとハラーム、しかしきちんと食事をしてジュースを飲んで時間になって帰るとなればハラール。これを私たちは子どもたちに教えていかなければいけません。ファミレスでもお酒は出るし、お寿司屋さんでもハムは回ってきます。ここで選べる、きちんと宗教にのっとった選択をするということをムスリムとして子どもたちに伝えなければいけません。そのために、積極的に外に出るようにしています。

ムスリムの子どもだけではなくて、自分で自分の大切なものを選べるようになることは、これからのすべての子どもたちにとって大切なことです。ピーナッツアレルギーの子がピーナッツしかないから周りと合わせて一緒になって食べるのではなく、『いらない』と選択できることが大事。子どもに自分の置かれた状況を説明し、教育をすることが大切です。その子が自分で食べないという選択をして自分の身を守らないと病院へ行くことになってしまいます。自分でいらないものを自分で選び、他の人に言われたとしても自分で断れるように、子どもに伝えています。人と違っても自分にいらないものは拒否できるようになってほしいです。拒否することが悪いことではなく、自分の身を自分で守ることであり、大切な意見であると周りの方にもご理解いただければ嬉しいと思います。日本でもお酒に呑まれてしまったというようなニュースを時々耳にします。自分は飲まない、あなたとは帰らないとなるといいですね。「私はそれはしないの、それでハッピーなの」ときちんと言える人になるように、子どもたちに伝えていくことを念頭にいつもおいています。

*この記事は、2013年4月発行『たぶんか便り』第11号の記事を元にしています。本文内の情報はすべて、発行当時のものです。 

【用語解説】

イスラーム 聖典クルアーンと預言者言行録ハディースによって規定する体系を指すムスリムの信仰生活
ムスリム イスラーム教徒の男性(アラビア語社会以外では基本的に区別しない)
ムスリマ イスラーム教徒の女性
アルジェリア人質拘束事件 2013年1月16日、アルジェリアの天然ガス精製プラント起きた人質拘束事件
ハラール イスラーム法で許された項目(≒イスラーム法で食べられるものを表す)
ハラーム イスラーム法で許されない項目(ハラールの反対)

 

(参考)「ムスリムフレンドリー」                     http://muslim-friendly-japan.com/seminar.html

 

NPO非営利活動任意団体 子どもと女性のイスラームの会           URL:http://childrenislam.org

 

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