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【団体インタビュー 012】日本ユーラシア協会愛知県連合会

2020年07月09日 15:52 by tabunka_tokai
2020年07月09日 15:52 by tabunka_tokai

もう、近くて遠い国ではない。ユーラシアに目をむけよう! 

にぎわう新栄町の大通り。その1本裏の道にある通りに、愛知民主会館はありました。1階にある書店には、労働者問題や原発、日本国憲法などの書籍が並んでいます。この建物の3階に「日本ユーラシア協会愛知県連合会」はあります。「ユーラシア」と聞いて、あれ、どこだろう?と思う人も多いかもしれません。ユーラシア大陸と聞いてはじめてピンとくる人もいるでしょう。冬季オリンピックが開催されたソチがあり、そして今、ウクライナ問題で何かと話題になっているロシアを中心とした、旧ソ連諸国と日本との交流をはかっている団体です。愛知県連合会という名称からもわかるように、全国規模の団体です。今回、愛知県連合会(以下、「愛県連」)理事長の安原勝彦さんにお話を伺いました。

 

 

 

そう言えば、ロシア語って隣の国の言葉なんだ!

オフィスはこぢんまりしていて、ユーラシアの物産やロシアの有名な人形「マトリョーシカ」などが置いてありました。オフィス訪問時には、安原さんの他に2名のボランティアスタッフさんがお仕事をされていました。ロシア語講師のロシア人の先生も出入りされていたので、時折ロシア語も聞こえてきます。愛県連には有給スタッフはおらず、10名ほどのボランティアスタッフによるシフト制で運営されているそうで、アットホームな雰囲気が伝わってきました。

まず、愛県連が行っているロシア語教室のパンフレットを見せていただきました。そこには「そう言えば、ロシア語って隣の国の言葉なんだ!」というキャッチコピーがありました。そうだ、ロシアって隣国だったんだ!隣国というと、中国や韓国、台湾などを思い浮かべる人が多く、ロシアという国名が浮かぶ人は少ないのではないでしょうか。たしか、北海道小樽出身の友人によると、小樽にはロシアの船員たちも上陸するので、見かけることが多いと言っていました。今でも新潟ではそのような状況であるということは聞いていました。しかし、それ以外の地域の人にとっては、「隣国」と言うにはやはり距離があるような気がします。地図を見ると理解できますが、少しばかり新鮮な驚きでした。

愛県連さんは長い歴史をお持ちです。「日本ユーラシア協会」は、日本とロシアの前身である旧ソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)との国交回復日ソ共同宣言を受け、1957年6月29日に「日ソ協会」の名称で、ソ連と当時ソ連に属する国との国際親善を目的に設立されました。その後、ソビエト連邦の崩壊を受け、協会は1993年に名称を「日本ユーラシア協会」に変更しました。設立者は、元総理大臣の鳩山一郎氏です。その後、各都道府県が支部を持つようになっていきます。愛県連は、同年10月に当時名古屋支部として栄に誕生しました。現在の民主連合会館に移転したのは1962年。協会誕生から60年以上、この名古屋市内で、手堅く、ロシア語教室の運営やロシアの文化紹介、そして日本との交流事業に携わっています。

講座の案内を見せていただきました。名古屋圏で唯一のロシア語学習教室です。ロシア語講座は初心者から上級者、また高齢になってからロシア語をはじめる人のためのシニアコースなど、学びやすいようにきめ細かい配慮がされています。講座を受ける人の目的、年齢はさまざまですが、「ロシアが好き」というのが大多数の動機だそうです。また、ロシア語特別講座以外には、合唱団「ミール」というサークルがあり、ロシアの歌をロシア語で歌う合唱団で、月2回くらい練習日を設けているとのことです。他に、ロシア料理のサークルもありました。 

(結成22年の合唱団、ミール)

ロシア兵捕虜の墓参

愛県連は、ロシアの楽団の招へい、ユーラシアへのツアー企画など、さまざまな文化交流活動をしています。多々ある活動の中で、特に大切にしている行事が、毎年4月の第1日曜日に行われる、平和公園の陸軍墓地の一角にあるロシア人兵士捕虜の墓参です。これは1904年に起こった日露戦争で捕虜となり、日本に連行され、そして名古屋市内の収容所で命を落としたロシア兵たちのお墓に祈りを捧げるものです。15基あるこのお墓は、近年まで放置され忘れられていたそうですが、1990年にソ連に抑留されていた協会の会員が平和公園を訪れた際に、1基のロシア語の墓標と慰霊碑を発見。その碑文を大阪領事館とハリストス教会との共同で解読したところ、15名の捕虜が埋葬されていた事実がわかりました。

そして1992年に日本ユーラシア協会、ハリストス教会、領事館が協力して現在の墓として整備しました。以後、追悼のお墓参りが行われています。このお墓参りの際には、合唱団ミールも追悼の歌を歌います。日露戦争から110年経過した今年のお墓参りは、4月6日に行われました。悲しい事実が背景にはなっているが、名古屋とロシアの縁はこういう形でもつながっているのですね。

(24年目を迎えた、ロシア兵士墓地慰霊祭)

ロシアと日本はこの日露戦争、そして北方領土問題など、つらい歴史が存在しています。だが、ともに平和を祈る気持ち、相手を敬う気持ちにはかわりはないはずです。このお墓参りは、両国の平和を祈るとともに、親善の気持ちを新たにする貴重な機会ともなっています。安原さんが話してくださった協会の理念は、政治ではカバーできない部分を民間で補うことだそうです。つまり、草の根の交流で、お互いを知り、お互いの文化を尊重するところから始めることに大きな意味があるということです。それが大きなうねりとなって、世界が動いていくのだと。

多文化共生の視点としての「日本の中のユーラシア」

安原さんに、日本在住のロシアとその関連諸国の人々のことを聞いてみました。近年、この地域の多文化共生といえば、まず多くの場合、浮かぶのが外国人労働者として多く国内に住むブラジルをはじめとする南米諸国出身者で、生活圏でそれぞれコミュニティをつくって生活していることが多々あります。ユーラシア諸国の場合はどうなのでしょうか。

「日本にいるユーラシア諸国の方は、アジアや南米出身者と比べるとはるかに少ないです。多くの場合、日本人との結婚でこの国に住むことになった方々です。ヨーロッパやアメリカでは、主に旧ソ連から亡命ロシア人あるいはロシア系を先祖に持つ人たちがコミュニティをつくって生活していることもありますが、日本ではそういった形ではなく、個人個人で独立している場合が多いようです。やはり、同じ隣国出身でも、朝鮮半島や中国出身の方たちとはそういった意味で、状況が違います。大国でありながら目立たない隣人。それが日本にいるユーラシアの人たちの状況かもしれません。」

(ロシアフェスティバルで紹介されたアニメ)

人数が多くなり、まとまればそれだけ“声”が大きくなりますが、大きなコミュニティをもたないユーラシア諸国出身者との日本国内での多文化共生を考えた場合、まずロシア語や文化に関心を持った人たちとの小さな交流がスタートします。そして、そのユーラシアの人たちと日本人が交流する場として、愛県連は大きな役割を果たしているのだということがよくわかりました。

地道な活動の継続と行動力

最後に、安原さんがお話ししてくださった面白いエピソードをひとつ紹介したいと思います。安原さんは名古屋市職員として勤務され、労働組合の委員長を務めていたそうです。その当時はまだソビエト連邦だった現ロシアは、アメリカ合衆国とギクシャクした関係が続いていて、1980年代当時の米国大統領ロナルド・レーガンと、ソ連の共産党書記長ゴルバチョフに安原さんは「平和のために努力しなければいけない」と手紙を書きました。その後なんと、ゴルバチョフ書記長から返事がきて、その手紙を預かっているソ連の大使館まで安原さんは手紙を受け取りに行きました。それがきっかけとなり、当時のソ連の大使との交流が生まれ、大使が名古屋を訪問。レセプションが開かれ、大使による中部電力の発電所の見学まで実現しました。この安原さんの行動力はロシアとこの地域の結びつきに多大な貢献をしたのではないでしょうか。

(子どもたちに受け継がれていくロシアの民族舞踊)

ロシアと日本の間に存在する問題として、北方領土権問題があります。このことについても「文化交流をしつつ政策提言をしていければ」と安原さんは考えています。解決しなければいけない課題はありつつも、隣の国です。ロシアのことをもっと知りたい気持ちになりました。ピロシキ、マトリョーシカだけでない、もっと違ったロシアやユーラシアの国々が見えてくることでしょう。日本ユーラシア協会愛知連合会の長年に渡る地道な草の根の活動、そして安原さんの行動力に感銘を受け、会館を後にしました。これからの日露のさらなる友好関係構築を心から願います。

*この記事は、2014年6月発行『たぶんか便り』第12号の記事を元にしています。本文内の情報はすべて、発行当時のものです。    

 

日本ユーラシア協会 愛知県連合会                    URL http://nichiyu2015.webcrow.jp/

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